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2009年9月16日 (水)

アメリカ歯周病学会・ボストン

米国歯周病学会のアニュアルミーティングに参加して参りました。今年はマサチューセッツ州ボストンでの開催でした。大変美しい街で、緯度は北海道中部くらいに位置しているため9月とはいえ汗ばむこともなくスーツで心地よく活動できる天候は東京と比較すればうらやましい限りでした。学会の規模も大変大きなもので、数千人規模のものでジェネラルセッションと呼ぶ最も大きな会場は2千人収容ということでした。プレゼンも、PCやMacによるプレゼンの隣にプレゼンターの先生の姿も上映され、さながらロックスターのコンサートのようでもあり、日本の学会では決して味わうことの出来ないものです。そしてそのメイン会場以外にも10近くのサテライト会場があり百人単位で収納可能なものです。

この15年くらいはインプラントの嵐が吹き荒れ、驚くような進歩を遂げてきました。そしてその主導権は間違いなくこの学会にあるといえます。さらに21世紀になってからは特に上顎の前歯において天然歯と見分けることのできない「パーフェクト」な審美修復が大きなテーマとなってきていましたが、正常で適正な歯列と咬合機能を持った口腔においてはコンセンサスはほぼ固まったと感じています。

その一方で、トピックスとして徐々に台頭してきているのが矯正治療と補綴・修復治療と組み合わせたいわゆる「(マルチ)インターディシプリナリー・アプローチ」のセッションが増えてきているようです。日本の歯科事情を考えるとすべての治療を同一の術者が執り行う治療が広く行われているのでピンと来ない方も多いかもしれませんが、こちらでは、難しいと考えられる症例は一般(GP)が専門医に利ファーして治療するということが少なくとも高学歴で収入もしっかりあるそうに対しては一般的になっています。

なぜ、自分の患者を専門医に紹介するのかといえば、より最適で良好な結果が得られることが良くわかっているためです。そしてそのような複雑な問題を抱えたケースについては単一の専門医、つまり歯周病専門医だけであったり、矯正専門医だけではパーフェクトな解決を期待できないであろう場合についてはそれぞれの専門医があつまり、協議してプランニングを行った上で分担して治療に当たります。大変ではありますが、患者側の利益を考えるのであればきわめて合理的であり、高度な技量が妥協することなく施術され結果を導くことが出来るのです。

しかし、そのためには術者から患者への十分な説明と理解、その上での同意が必要であり、経済的にも誰にでも問題なく受け入れられるというものではないというのがジレンマではあると思います。

しかし、そうまでしてでも完璧な結果が提供され、それが長期的に安定した状況を維持できるというのであれば、それは、それを何よりも欲するものにとってかけがえのない価値であり、逆に失敗であったり、不十分な結果にしか到達できなかった場合、その不満は本人にとって他人には計り知れない失望をもたらすことになり、訴訟および弁護士大国である米国では、即時に訴訟問題へと発展し、患者サイドへの配慮が強いかの国では懲罰的な賠償が術者へ請求され、その金額は日本人の感覚では驚くような額で解決をみることも多いのです。

そんな背景を踏まえて発展してきた米国の専門医医療はとどまることのない科学的な根拠の蓄積をベースに腕に自信のある歯科医師たちが築き上げてきており、そしてそれを世界に配信しています。

今回も含め、インプラント一辺倒に走りがちであった潮流から歯周組織再生療法が見直されてきているようです。シンポジウム形式のディスカッションを含む講演で上顎前歯、中切歯2本の歯周炎による正中部を含む付着の喪失が認められる症例についてどのような治療方針をとるのか?という初診における記録をまず提示した上に数人の先生に問いかけそのプランニングとその根拠を説明してもらうのです。

 ●スケーリング・ルートプレーニングのみの非外科療法

 ●歯周組織再生療法

 ●抜歯してインプラントへの置換

このケースのポイントは歯周炎による付着の喪失が最も深刻な部位でも歯根の長さの半分強であり、動揺度もホープレスであると考えられないケースで、単純に歯の保存という観点から見るのであれば第1選択肢は、どんな手法であれ歯周病の治療を行い歯の保存をはかるのが最も妥当であることに異論がある先生はいないケースです。

そのようなケースで何が論点になるのかといえば、「審美性」です。本質的に人間は自己の外見を気にする生き物です。誰しも治療の結果として上顎中切歯の長さが著しく増加したり、左右非対称の外見に「治療後になってしまう」のを好む人はほとんどいないでしょう。例えそれで歯周病の進行が停止して歯の寿命が延命したよと担当歯科医師に説明を受けたとしてもそんなことを受け入れられる人は少数派であり、よしんぼ、「先生、ありがとう!」と言ってくれる心優しき方であったとしても、心中は穏やかならざるはずです。

そんなわけで以上のオプションが提示されるわけです。

ノンサージカル、つまりフラップを開けずにスケーリング・ルートプレーニングを推奨する先生は上顎中切歯は単根歯であり歯根の解剖形態がシンプルでサイズも大きいためにフラップを開かなくとも歯周炎の原因を取り除けると考え、外科的な侵襲が軽微なために歯肉・歯間乳頭の炎症の消退による軟組織の収縮は「最小限」ですむと考えられるので、ノンサージカルによる歯周炎治療の成績のレビューを紹介して診療方針として解説するのです。

しかしながら、歯肉の退縮が「少ない」とはいえ「全く生じない」と言うことは歯周病治療の原則からはあり得ないため、いくらかの歯肉退縮および歯間乳頭の消失によるいわゆるブラック・トライアングルの出現は避けられないでしょう。

ただしその程度が予測できて、患者側の審美に対する要求がさほど強くないのであれば問題なく許容されるかもしれませんし、治療もシンプルで経済的にも有利でしょう。

歯周組織再生療法を支持する先生は垂直性の骨欠損が認められ、それがすべて3壁性のいわゆるインクルード・リージョンではないにせよ、2壁あるいは1壁性のディフェクトであるならば、歯間乳頭を保護したフラップデザイン、メンブレン、骨移植、EMD, PDGFなどのオプションを示し、単独あるいはコンビネーションについて、治療の結果の推測を様々なレビューより解説してくれました。

私、個人的には紹介された症例について言えばこの選択をする可能性が高い。もちろん患者との入念な打ち合わせは必要であるが、喪失した歯槽骨と繊維性の付着の組織再生は相当量期待できる欠損形態であるように感じたし、辺縁歯肉の位置も最低限治療前と同じ位置に保存できる印象を持ったし、場合によればより歯冠側に持って行くオプションも撮れる可能性があると感じたからである。ただし、完全な歯間乳頭の保存に関してはプラスティックサージェリーのオプションのみでは苦しいかもしれない。そしてその解決を図りたいというのであれば、歯冠修復によりコンタクトポイントの位置の変更をすることが最も現実的で長期予後の期待できるプランであるかもしれないが、歯の切削を選択するかどうかは大きなジレンマだと思います。

そして、インプラントという選択がある。現在の上顎前歯インプラントの知識を動員すれば付着の喪失のある歯について抜歯を行い、硬軟両組織のティッシュマネージメントを施した上でインプラントを設置すればそれが単独歯の欠損であれ、あるいは2歯連続の欠損であったとしても十分な技術と知識を有した術者であればパーフェクトな審美修復が可能である点については、いくらかのリサーチにおいても、クリニカル・ケース・リポートにおいてもその実現の可能性は示唆されています。

このオプションは術者にとってはいくつかの点で魅力がある。技術的に細かなディシジョンメイキング作成して、その選択に理論の裏付けをつくり、プランニングに完璧を期した上で治療を行い、その結果が予測の結果通りに上々であった場合、この上ない達成感を得るでしょうね。

しかし、患者側は抜歯という現実の失望感を経た上で、その選択を決意し、いくらかの治療期間中は、それが本当に自分の望んだ結果になるのかどうか、不安の中で暮らさねばならないし、抜歯を含め手法にもよるが数回の外科処置を受けなければいけないのは辛い選択に違いないし。

それは、患者サイドからはリスク以外の何者でもないし、その期待に応えられなかった場合術者の責任は限りなく大きい。

それでも、以上のような選択肢があることは、術者と患者双方に利益がある。なぜなら、あらかじめ得られる結果が保証されているならば冷静に人生の選択が出来るのだということ。これを可能にするのが科学でその選択肢を分かりやすく証拠を示しながらプレゼンできる人材が豊富にいるこの学会はすばらしいのだと思います。

もし、この拙文を読んでくださっている同業者がいらっしゃるのであれば、ぜひ一度参加なさることをお奨めしておきます。

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